開発者に聞く「新レミュー」の進化とその舞台裏(前編)

2023年8月23日
コラム

2023年8月、タカラスタンダードの最上級システムキッチン「レミュー」の最新モデルが発売されます。6年ぶりのフルモデルチェンジとなる今回は、市場のニーズやトレンドを反映し、大胆なデザイン改革を実行。これまでのレミューのイメージを一新し、使い勝手も大きく進化しました。まさに“フラッグシップ(最上級・最高級)”を体現する新レミュー、その誕生に至るまでにはさまざまな壁がありました。そこで今回は開発部門に直撃インタビュー! モデルチェンジのポイントや知られざる開発秘話、商品に込めた思いなど、新レミューの魅力をたっぷりお届けします。

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【1】真のフラッグシップモデルを目指して

――前モデルの発売は2017年でした。今回フルモデルチェンジに踏み切ったきっかけはどのようなものだったのでしょう?

児玉:
前モデルも非常に力を入れて開発した商品で、当時は「すごく良いものを作ることができた」と思っていました。しかし、いざ市場に投入してみると、「中級モデルの『トレーシア』とデザインが似ている」という声がよく聞かれたのです。「それなら価格が安いトレーシアでいい」というお客様も少なくありませんでした。
また、デザインのトレンドも年々変化しています。今好まれるのは、余計なものが付いていない、フラットでシャープなデザイン。そうした状況を踏まえ、フラッグシップモデルにふさわしく、時代のニーズにお応えできる、全く新しいレミューを作ろうと考えたのです。

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【2】開発コンセプト1:時を超えて愛される、普遍の価値

――新レミューのコンセプトは「Timeless style, Timeless Beauty」。どんな意味が込められていますか?

児玉:
今、世界的なトレンドになっているのが「良いものを、手をかけながら長く使おう」「過去の良いものを見直そう」という価値観です。その流れの中で、今回のモデルチェンジでは「時を超えて愛される普遍的な価値のあるキッチン」を目指しました。
デザインとして注目したのは「ミッドセンチュリー」。1940~60年代に流行したスタイルで、シンプルでモダンなデザインが特徴です。古い家具が好きな方にも人気が高く、普遍の美ともいえる魅力があります。当社の象徴であるホーローもまた、長く使い続けられるもの。ずっと使っていただいて、それでも飽きがこない。そんな「長く愛される商品」を作りたいと考え、誕生したのが新レミューです。

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【3】開発コンセプト2:「自分だけのキッチン」をかなえるカスタマイズ性

山口:
開発コンセプトのもう一つの柱に、“バリエーションの多彩さ”があります。レミューは当社のフラッグシップモデルです。上級クラスの製品を購入されるお客様は製品へのこだわりが強く、「本当に自分に合う商品」を選びたいと思っています。そうしたニーズに対応しきれていなかった点も、前モデルの課題でした。

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――今回どのような改善を行ったのですか?

これまでのレミューは、使いたいと思う機能を「標準プランにどんどんオプションとして追加していく」という形式をとっていました。対して新レミューは「この機能はいらない、この機能は欲しい」といった組み合わせが自由。扉や引手の色の種類が増え、家事らくプランも2種類になり、それぞれお好みのものを選べるようになりました。扉の色には新たに低価格帯のグレードも設けたので、例えば「扉の色は一番下のグレードでいいので、この機能を付けたい」といったカスタマイズが可能です。

――本当に必要なものだけを組み合わせた、「自分だけのキッチン」が楽しめるのですね。

お客様はいろいろなご要望をお持ちですが、同時にしっかり予算管理もしていらっしゃる。その中でも理想のキッチンを実現しやすくなることで、パートナーショップ様の販売にも役立てていただけるのではないかと考えています。


【4】最高峰のホーロー扉誕生。技術革新への挑戦

高級感を生むシャープでフラットなモールレス扉

――ここからは新レミューの具体的な特長に迫っていきたいと思います! なんといってもデザインが大きく変わりました。非常にスタイリッシュな印象ですね。

山口:
もっとも重視したのは扉のデザインです。トレンドを反映した、シャープでフラットな形状にこだわりました。これまでのレミューは薄板を曲げて両サイドにモールを付けることで扉としていましたが、新レミューでは箱曲げ形状を採用。モールレスのスクエアなデザインや、木口の厚みによって高級感や重厚感が生まれました。
これは『トレーシア』との差別化において欠かせないポイントです。モールの付いた扉デザインは、両製品に似通った印象を与える要因になっていました。モールレス扉の開発は、新レミューを作るうえで避けては通れない道でした。

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児玉:
モールレス扉の価値をさらに高めるのが、当社独自のホーローへのインクジェット印刷です。当社のインクジェット印刷は、柄デザインから加工まで自社完結しており、デザイナーの狙いをそのまま商品に落とし込むことができます。今回この印刷技術がさらに進化したことも、モデルチェンジの大きなポイントになっています。それによって、フラッグシップモデルにふさわしい、唯一無二のデザインを実現することができたのです。

試作は500枚以上。ホーローの限界に挑んだシャープエッジ形状

――モールレス扉は普及モデルの『エーデル』にも使われていますが、今回は全く新しいモールレス扉を開発されたそうですね。

山口:
エーデルのモールレス扉はプレス加工で製造するため、どうしてもエッジに丸みが出てしまいます。新レミューが目指す“高級感”を表現するためには、シャープなエッジが必須。そこで箱曲げ形状を採用したのです。しかし、そうすると溶接部分のホーローとの密着性が悪くなってしまう。これが大きな課題でした。
この問題を解決するために生産部門と開発部門でアイデアを出し合い、これまでの技術の蓄積を生かしながら、ありとあらゆる形状を試しました。試作品の数は500枚を超えます。「これならいける!」という品質に到達するまでに3年ほどかかりましたね。

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――500枚!それはすごい…。たしかに新しい扉は角がすごくシャープで、これまでのレミューとも、エーデルとも全く違います。

山口:
この開発に伴い、扉の角の部分の強度評価も新たに設けました。「実際の使用環境で想定される衝撃に耐えられるか?」という視点で評価手法を確立し、例えば掃除機が当たる扉の下部分には保護カバーを付けるなどして、安全性を高めています。工場出荷時にも品質を確認できる体制を整えました。

1面印刷から5面印刷へ。美しさへの追求が生んだ、史上初の技術

――こうして生まれたシャープな扉に、柄を印刷していくわけですね。

児玉:
この印刷こそが、モールレス扉の開発における最大の壁でした。新しい扉の形状は、表面と4つの木口の最大5面に柄を印刷する必要がありますが、従来のインクジェット印刷は基本的に1面しか印刷できないんです。なおかつ、さまざまな扉サイズにも対応しなければならない。そうした印刷設備は、これまで世の中に存在しないものでした。そこで生産部門と連携し、多面印刷を可能にする当社独自の新設備の開発に取り組むことになりました。

――全く新しい技術を生み出さなくてはならなかったと。

児玉:
印刷の構造や精度、どのように印刷の向きを変えるのか?など、乗り越えなくてはならないハードルがいくつもありました。正直はじめは「絶対無理」と思ったことも…。しかし、生産部門が中心となって一つ一つ課題を克服し、3年がかりで商品化することができました。
あまりに困難な挑戦だったので、生産部門には当初「簡易的に印刷できる程度でいい」と伝えていたんです。ところが完成してみると、その出来は想像以上。「とんでもない設備ができた」と驚きましたね。この技術がなければ、今回のデザインが誕生することはありませんでした。木口までこだわり抜いた扉の美しさに、ぜひ注目していただきたいですね。

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引手に込めたコンセプトへのこだわり。新色ブロンズにも注目!

――扉上部の引手もこれまでにないデザインですよね。

嘉数:
ここまでこだわりを持って作り上げた扉ですから、それをさらに引き立てるようなデザインにしたいと考えて設計しました。今回、扉の表面がフラットになり、柄の印刷がすごく映えるようになったので、その美しさをできるだけ邪魔せず、よりスッキリと見える形に仕上げました。扉のふちに沿って取り付けられた引手は、キッチン全体に一直線にラインが伸びているような印象を与えます。これにはキッチンの幅を大きく見せ、ダイナミックさや高級感を増す効果があります。当然ながら使いやすさも大切なので、引手の深さやサイズ感も何パターンもテストしました。

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――扉にすごくマッチしていて一体感がありますね。とても洗練された印象です。

嘉数:
新色のブロンズも登場しました。「長く使えるもの、古い木目柄などにもよく合うもの」といったイメージで、新レミューのコンセプト「Timeless style, Timeless Beauty」にぴったりなんじゃないかな、と考えて選んだ色です。他社商品では今回の新色と近い色味としては、ゴールド系が採用されているのですが、より落ち着いたトーンのブロンズ色にすることで、より扉の柄になじむようにし、レミューの上質さを表現しました。

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【5】まるでオーダーメード。タカラにしか作れない新扉デザイン

暮らしに安らぎを与えるトレンドの「木目調」

――柄もこれまでとイメージを一新しました。どのような点がポイントになっていますか?

児玉:
新コンセプト扉カラーとして、「木」「石」「金属」をテーマにした8種類の柄を新たに取りそろえました。長い時間をかけて育まれる、自然界の美しい模様を表現したものです。木材、石材、金属は、インテリアの世界的な流行を決める国際家具見本市「ミラノサローネ」でも近年注目を集めています。中でも木材は展示製品の半数近くで採用されているトレンドの素材です。
それからもう一つ。お客様のライフスタイルの変化もトレンドを左右します。昨今はコロナ禍や不安定な社会情勢により「安心感」を求める傾向が強くなっています。そこで、安らぎ感のある「木目柄」に特に力を入れて開発を行いました。

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試行錯誤の連続。自然界の模様を写し取る繊細な作業

――実際に扉を見て、本物の木材のようなナチュラルさに驚きました。どのように作られたのですか?

伊東:
まず柄データを作るために、本物の木材や石材をスキャニングして、それをキッチンの柄として合うように加工・修正していきます。本物の素材を使うので、傷があったり、黒ずんでいたり、ものによって状態が違うんですね。例えば新柄の「スポルテッドビーチ」は、帯状の筋のような模様が特徴です。これが柄の味わいを生むのですが、太く入りすぎている部分などはデザインとしては不自然に見えてしまうので、最もキッチンに合う見え方になるよう調整を加えました。

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――繊細な作業を重ねた末に、この美しい柄が出来上がっているんですね。

伊東:
ほかにも、スキャニングしたままのデータだと浅く感じてしまう場合は、別の素材データを上から重ねて奥行きを出す…など、さまざまな工夫をしています。自然界のものにはさまざまな表情があるので、それを生かしながら、最も美しく見えるようなデザインを追求しました。

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「オーダーメード」を「量産」せよ!その裏にある緻密な計算

――そうして完成した柄データを生地に印刷して、扉を作っていく。この時にカギとなるのが「デザインルール」とのことですが、デザインルールとはどんなものなのでしょう?

黒川:
新レミューのデザインは、キッチン全体で見た時の柄の美しさがポイントになっています。そのために必要となるのがデザインルールです。
キッチンにはさまざまなサイズの扉があって、キャビネットもお客様の要望に合わせて自由度を持って配列されます。特に縦の木目や、グラデーション柄では、どのような配列になっても違和感のないように、扉ごとに柄をどのように印刷するかを緻密に計算しなくてはなりません。柄のリピート感を防ぐために、隣り合った扉には極力同じ柄が並ばないように設定する必要もあります。
扉ごとの印刷パターンを無限に作ってしまえば簡単なのですが、そうすると工場で管理するアイテム数が無限に増えてしまう。当社は量産メーカーなので、生産効率への配慮も重要です。それらを加味して、最適なデザインルールを作成しました。

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――生産効率を高めるためには、アイテム数を極力少なく抑える必要がある。それでいて、一つのキッチンセットとして組み上がった時に違和感がないデザインにしなくてはいけない。その両立を実現したのですね。

児玉:
キッチン全体で柄がつながる一体感のあるデザインは、まるでオーダーメードのような特別感を演出します。木口部分にも木目の方向にまでこだわって柄を印刷することで、無垢材のような意匠性の高さを実現できました。一点モノのオーダーメード品は本物の木材を切り出して作るため、1000万円以上するものもありますが、それをせずともオーダーメード感を味わっていただける。これが新レミューの魅力です。

黒川:
これまでのレミューにも木目柄はありましたが、とてもシンプルなものでした。今回のモデルチェンジで個性的な木目柄も加わり、こだわりのある方々にヒットするようなラインアップになったので、楽しんで選んでいただけるのではないでしょうか。


【6】「中級モデルと同じ」とは言わせない!フルモデルチェンジへの熱い思い

山口:
キャビネットの色も増えて、組み合わせによるバリエーションは非常に多彩になりました。これは同時に、生産現場で扱うアイテム数が膨大になったということ。先ほどデザインルールのところで、極力アイテム数を抑えた…とお話したのですが、それでも新レミュー全体で扱うアイテム数は激増しました。前モデルと比較すると一桁変わるレベルです。これは全社的な課題でした。

――カスタマイズの自由度が高いほど、生産負荷も高くなる、ということですね。

山口:
生産現場には、膨大な部材の在庫管理、それらを組み合わせての製造、作業者への指導…とそれこそ桁違いの工数がかかってくるわけです。モールレス扉のような技術的な課題もありましたし、工場もはじめは否定的でした。それでも根気よく話し合いを続け、試作を重ね、徐々に「確かにいいね」と納得してもらえました。

――そこまでの苦労があっても、目指すものを貫くことができたのはなぜでしょうか?

山口:
今回のフルモデルチェンジにはこれまでにない強い思いがあり、開発にあたって2020年から企画、設計、デザインとチームをまたいでのリーダーミーティングを重ねてきました。そこで出たのは「できないと言うのはやめよう」という言葉でした。「できない」と言うのは簡単です。過去にはそれで諦めてきたこともありました。でも今回は諦めたくなかった。やっぱり「レミューが中級と変わらない」と言われるのは不本意なんですよね。「良いと思うものを実現するために、どうしたらいいか話し合おう」と視点を変えて、フラッグシップモデルとして目指すべき姿に皆で向き合ってきました。

――そうしてたくさんの人が関わり合い、数えきれない課題を乗り越えた先に、新レミューがあるのですね。

山口:
まさにタカラスタンダードの総力をあげての挑戦だったと思います。現在、生産にあたっては、工場に非常に手間をかけて取り組んでもらっています。本当にありがたいですね。

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「本当に良いものをお届けしたい」。新レミューの要となる美しくシャープなデザインには、作り手たちの情熱が込められていました。しかし、新たなフラッグシップモデルの魅力はデザインだけにとどまりません。キッチンとしての佇まいだけでなく、そこに立つ人の所作までも美しくしてくれるのが新レミュー。後編では、家事効率を劇的にアップする新・家事らくプランや、タカラの独自技術によるホーロー製レンジフードの進化とその舞台裏に迫ります。


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